初拡張
成人を超え、定職についてみると、新しいことというのは能動的に出会いに行かないと触れづらい。
ということで友人が計画していたバンジージャンプに首を突っ込んで参加してきた。
色々省くけれど、やってよかったかでいうと、バカみたいな遊びなので別に全人類がやるべきではないと思う。
だけど日々死にたいとか思ってしまう私にはちょっとお高めでよく効く素敵な薬みたいな感じだった。
飛び込むときは自分の意志だけで飛ばないといけなくて、あとでカメラを見返したら「いきます!」と宣言してから飛んでいた。元気がいい。
飛び出すときは雲の方を見ろと言われて、その雲に近づけと踏み込んでみた瞬間に「やらかした!」と思う。そしたらすぐに落下が始まる。いつも瞬間すぎて知らなかったが、落下には始まりも、終わりもある。
浮遊感が過ぎ去っても落下は終わらず、ただ落ちている時間が来るのが不思議だった。
梅干しの種の中にあるという柔らかいやつ、とか、もうないと思っていたマトリョーシカの更に小さいやつ、とか。そういうタイプの未知との遭遇だった。未知とはいえ、USJのジェットコースターに似てはいるのだけど、落ち続けると浮遊感は過ぎるらしい。
それから、落ち切ったゴムはびよんとたわんで、人間はバウンドする。
これがいちばん怖かった。
これから落ちる、と思いながら引き上げられて、その通り落ちる。
ゴムの伸縮性がたっぷりと内臓を無重力っぽさに漬け込んでくるのだ。
というか、落ちる前にあらゆる「力」が自分を知らんぷりするような瞬間があって、その瞬間、多分、へその緒とかが切れた瞬間の赤ん坊とかと同じタイプの不安がどかっとやってきて、次の瞬間には化け物じみた重力に引っ張られるそのギャップが物理的にも精神的にもこわかった。
多分地獄とかも、これから血の池地獄とか、針地獄とか案内はあるんだろう。でも案内があったとて怖いもんは怖いということもわかった。
途中の録音に「これ、ブランコだ」という言葉が残っていた。衝撃のゆったりとした往復はたしかにブランコのような瞬間もあったけれど、その言葉によってもたらされたのは安心ではなくブランコへの恐怖だった。巨大なブランコはたぶんめちゃくちゃこわい。
終わってから這う這うの体で近くの観光センターに転がり込み、各々甘いものなどを食べた。さっき数十メートル落下したこの体が、今は普通にかき氷を食べている、というのがなんだか変な感じだった。冷たさが口、喉を通過して胃へ落ちていった。
その他印象的な世界
・参加同意書(けがする可能性があることを了承して参加しますと書いてある紙)にサインをするよう求められたのだけど、中段あたりに「ジャンプの結果した小さいけがについて損害賠償を求めることは、ボクシングジムに入会し、リングに上がって殴られたときに賠償請求するようなものだ」みたいなことが書いていて、同意書に比喩はダメだろと思った。遠路はるばる来たのでサインはした。
・橋から飛ぶんだけど、待っていたらおばさん二人が「何度もここには来たことがあるけれど、飛ぶ人を見たのは初めて!」と喜んでいた。1人目の落下を見てバスの時間があるからと去っていったらしい。この時間に来てよかったなあと思った。
・バスを逃したので道を歩いて行ったんだけど、突然ハイキング用くらいの山道を歩くことになり、驚いた。し、熊とか虫とか怖かった。途中で友人が「落ちる分くらいは昇ったね」と言っていて、歩いた登り坂の高さ全部分落ちたら本当に死ぬだろと悪態はついていたものの、今思うとそんな感じで苦労してへとへとになった判断力だからなんとなくえーいと飛べたのかもしれないな……と思った。喉元さえ過ぎれば何事もポジティブに考えてしまうのはもはや悪癖か。
とりあえず私にとってはいい経験にはなった。
そこそこ高いお金を払ってでもやってよかった。
明日のラッキーアイテムはもちろん命綱。では。